コトリ

晴れた空を眺めながら、コトリは思想をめぐらした
「あのそらのむこうにはなにがあるの?」
コトリは外の世界を知らなかった
外には「キケン」があるのだと母は言っていた
「キケン」とはなんだろうか?
父も母もコトリには優しかった
欲しがる物は何だって与えてくれた
しかし、外に出る事だけは許さなかった
コトリは聞いた
「おとなになれば「キケン」にかてるかな?そとにでられるかな?」
母は答えなかった
ただ、目に涙を浮かべながらコトリを見つめるだけだった
父がゆっくりと答えた
「あぁ…きっと勝てるだろう、外にだって出られるさ」
その時からコトリは早く大人になりたいと思うようになった
 
時が経ちコトリは少し大きくなった
しかし、コトリは今だに外に出ることを禁じられていた
コトリは外の世界を少しずつ知った
外にはマチがありヒトがたくさん住んでいること
モリにはドウブツが住んでいること
母はクルマやデンシャでコトリに会いにきてること
コトリにはイエがありオトナになれば帰れること
今はキケンだから帰れないこと
いまはビョウインにいること
イシャの言うことを聞いていればオトナになれること
いつもお世話をしてくれているのはカンゴフであること
そしてコトリはビョウキであるから外に出られないこと
コトリは母や医者の言う事をよく聞いた
早く大人になりたいから、そして外に出たいから
しかし、コトリはなかなか外に出られなかった
 
月日はとめどなく流れていった
コトリも成長していった
しかし、いっこうにコトリの病状は回復しなかった
コトリは自分が不治の病であることを知っていた
また、大人になれないことも知っていた
だが、父も母も医者でさえそのことをコトリの前で話そうとはしなかった
コトリはそれが悲しかった
自分の事であるのに、自分が蚊帳の外にいるのが不思議で堪らなかった
一度母に
「私は治らないんでしょ?私知ってるんだよ。不治の病何でしょ?私此処で死ぬんでしょ?」
と、言ったことがあったが母は「何言ってるの!!あんたは治るんだから何弱気なこといってるんだい!きっと明日にでも家に帰れるようになるんだから」
と一蹴されてしまった
そして何より母がそう願って止まないようでそれ以上何も言えなかった
 
コトリは考えた
自分は父や母に何ができるだろうと
母が何と言おうと、自分はいつ死んでもおかしくないのであろう
だからこそ、何かをコトリは残したかった
自分の生きた証と感謝の想いを残しておきたかった
 
それから半年が過ぎた
寒い冬がようやく終わり、暖かな風が吹き始める頃
コトリは静かに息を引き取った
普通の人からすれば早すぎる別れであったが
生まれてからすぐに病に冒されたコトリにとっては精一杯の生だった
母がコトリの病室を整理していると一枚のキャンバスが出てきた
それには窓が見える風景と一羽の鳥が描かれていた
母は見た瞬間涙が溢れた
窓からでしか外の世界を見たことのないコトリ
しかし、そこに描かれていたのは無限に広がる世界
そして今まさに旅立とうとしている一羽の鳥
母は悟った
コトリは今まさに飛び立ったのだと
果てしない空の向こうに