水面

浮かぶが良いさ
去れど決して中を覗くなよ
 
久しく見ぬ雨の後
大きな池が出来た
皆、大地の潤いに感謝し
存分に堪能し享受した
誰もが誓いを守った
皆誰が言ったかは知らなかった
然しそれが掟である事は理解していた
疑問を持つものはいなかった
 
池は枯れる事を知らなかった
 
久しく時が経った
皆、子を産み、子は孫を産んだ
歳月は考えを変えた
子は親の伝えを守った
それが大切なことだと知っていた
然し孫はそれを良としなかった
古い伝統だと嘲笑った
祖父母が止めるのも聞かず
ついに禁忌を犯し中を覗いてしまった
孫は引き摺りだされた
祖父母も親も皆悲しんだ
禁忌を犯した者の罰だと孫を責めた
もういないというのに
その後は誰も近付く事は無くなった
もう二度と繰り返さぬ為に
掟を厳守し生きる事を選んだ
 
引き摺りだされた孫は、初めて見る世界に心弾んだ
知らなかったのだ
世界はこんなにも広いものかと
其の全てを我が物とすべく満身創痍で取り組んだ
捨てた故郷に未練などなかった
戻る事をせず進む事を選んだ
時が経ち、彼らは子を産んだ
子は孫を産み、彼らは其処に繁栄した
 
中と外の交流は無い儘
唯、水面だけは全てを映していた